セミナー参加者から頂くよくある質問の中に、
「復帰時に異動を求められているのですが、どうしたらよいでしょうか」
というものがあります。
今回は復職時の異動について取り上げたいと思います。なお、先に結論を述べると、復職時の異動は強くお勧めしていません。
1.原職復帰の原則
私は、復職時には「元職場・元職位・元職務」への復職を原則としています。これを原職復帰の原則と呼んでいます。
実は、多くの会社で、就業規則に「原則は元の職場への復帰とする」と規定されています。ただし、重要なのは、どのような例外があるかという点です。
- 診断書に異動が必要と書いてある
- 受け入れる部署が嫌がっている
- 本人から職場が原因でメンタル不調になったのだから、異動させてほしいという希望がある
このようなケースを例外として、復職時に異動していないでしょうか。
私は、例外は「原職」が失われたときのみとしています。
- 部署の統廃合により、元の職場がなくなった
- 職位を空白にすることができず、やむを得ず別の人を充てたため、ポストに空きがない
- 当該職務をアウトソーシングすることになって、社内では行わなくなった
このようなケース以外においては、むしろ会社には原職を維持する責任があると考えています。法的な責任というわけではなく、道理的な責任です。
2.安全配慮義務の観点から
おそらく、この分野の裁判例に詳しい方からすれば、「安全配慮義務的に問題ないのか」という点が気になるかと思います。
安全配慮義務はまた別の機会にまとめたいと思いますが、端的に言えば、「そもそも復職時に異動が必要な状態は、まだ完全な労務提供ができる段階とは言えない。その状態で復職を認めた時点で、会社の安全配慮義務はむしろ拡大する」ということです。異動を認めることが、配慮したことには決してならない点は要注意です。
また、異動が本人の希望に沿うかどうかは、異動した時点だけでなく、その後の判断にも影響されます。要するに、後から振り返ってみて「あれは、病気休職を取得したことに対するいやがらせ的な左遷だった」とされたら、会社としてはどうしようもないわけです。
そのようなリスク回避のためにも、原職復帰を原則とすることをおすすめしています。(なお、同じ観点から、復職時だけでなく、育児休業/介護休業取得後の異動についても、特に慎重に行うことをおすすめしています)
3.現実的な対応
復職時の異動を認めたことにより、一番危惧しているのは、病気と人事的な措置が結びつくことです。
異動に関して言えば、本人がどのような事情を背景に希望してきたかによりますが、例えば、苦手な上司/同僚と離れたかった場合、今後の異動においても同じ組み合わせにならないように避けるようにしなければなりません。また部署の業務(例えばカスタマー対応)が苦手だった場合、今後も似たような業務がある部署への配置は慎重にならなければなりません。
このような事態を防ぐためにも、まずは原職に復帰できる状態まで復帰準備を行うこと、が重要です。本人が元の部署で元の業務を行っても自信をもって大丈夫だと宣言できる状態まで、しっかりと復帰準備をしてもらいましょう。
一方で、適材適所あるいは事業運営の都合上、異動させたいという場合もあると思います。苦手な部署や苦手な人間関係の中で業務を続けることは、生産性という観点からは望ましくないですからね。
その場合、まずは原職に復帰させ、その後一定期間経過し医学的な配慮が不要になったタイミングで、あくまで通常の人事権の行使として、異動させることをおすすめしています。
私は1カ月程度のごく短期間しか、残業の配慮を行わないようにしていますので、その後移動することになります(通常勤務できるという前提で復職しているのだから、過大な配慮はお互いのために不要という考え方)。一方で半年程度残業の配慮を行うような場合、その間は医学的な配慮を解除できない期間と言えますから、異動はできないことになります。
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