『邦人奪還』

気になっていたのですが、Kindleで購入して、一気に読んでしまいました。

伊藤祐靖.新潮社,2020

作品の内容自体は、自衛隊の特殊部隊(主に海自)が、北朝鮮に拉致されている日本人を救出するという作戦を取り扱っています。いわゆる軍事的な小説というよりも、日本において国家と国民がどのような関係にあるのか、自衛隊がどのような位置にいるのか、改めて考えさせられる内容でした。

国家観について

作戦中に命を落とすかもしれない、特殊部隊の隊長のセリフが印象的でした。

「結論から申し上げれば、『我が国の国家理念を貫くため』です。これ以外のはずがないのです。なぜなら軍事作戦は、国家がその発動を決意し、国家がその発動を命じて初めて行われるものだからです。だからその目的とするところは、国家が存在する理由、すなわち国家理念を貫くため以外であってはならないのです。しかし、しかし本当に…」
「本当に我々が確認させていただきたいのは、そこに強い意志が存在するかどうかなんです。共通の国家理念を追い求めている同士、同胞たる自国民が連れ去られたのだから、何がなんでも取り戻す。ソロバン勘定とは別次元、いかなる犠牲を払ってでも救い出す。その強い意志を総理ご自身がお持ちで、だから我々に”行って来い”と命じていらっしゃるのかどうかです」

国民国家は国民を守るために努力をし、場合によっては犠牲も払う。国民は国民国家を守るために努力をし、場合によっては犠牲も払う。こういう関係なのでしょうか。

これまでこの分野を正しく学んできたことがなく、非常に曖昧なのですが、最近この内容をしっかりと深めていかないと、地域の住民と地方自治体といった、身近なレベルでのふとした違和感を解消できない気がしています。

例えば「政治家が悪い!」「政府が悪い!」「日本はだめだ!」と人々が不満を言うとき、「政治家」や「政府」や「日本」が完全な客体になっていると思うんです。
 政治家は国民や市民の代表ですし、政府は国民や市民の代行機関ですし、日本は国民や市民そのものですよね。きっと文句を言うだけよりも面倒だろうけど、もっと主体になって動かないといけないなと、漠然と考えているところです。

職務給に通ずるアメリカの組織としての強さ

また別の面ではありますが、アメリカの組織としての強さについて、以下のような記載がある点が印象的でした。現在職務分析や職務給制度の導入を進めている中で感じていることを、端的に示している気がします。

「米兵のレベルは世界屈指の低さだと思っている。(中略)米軍は世界最強だよ。でも、最強の理由はふたつある。圧倒的な軍事予算と組織力だよ。レベルの高くない人間10人で、ちゃんと10の力を発揮する組織を作る能力で、あの国は世界に君臨している。日本は逆。レベルの高い人間が山ほどいるのに、10人集まっても6の力しか出せない」

職務給制度においては、職務記述書に職務の内容や与えられる権限、やらなければならないタスクなどが細かく記載されることになります。そして、定められたとおりに業務を遂行すれば、想定される成果が出るはずなのだから、評価は業績に対して行います。

要するに、普通の人でもその能力に見合った職務につけ、それを組み合わせることによって、組織としてしっかりとした成果を出せる仕組みである、ということです。

人事コンサルの先生だけでなく、軍事専門家からも同じような話が出たということで、非常に興味深い内容でした。

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