『欧州の教育・雇用制度と若者のキャリア形成―国境を越えた人材流動化と国際化への指針』

ドイツ・フランス(一部スイス)に関する、主に高等教育と雇用制度の関係について、まとめられていた本です。

恥ずかしながら、教育学を大学で学んでいたにもかかわらず、この辺の基礎知識があやふやなままでしたので、学ぶことが多く、大変勉強になりました(というよりも、吸収し切れていないので、時間をおいて、もう一周して、補足していきたいと思います)。

日本の雇用改革に対する重要な示唆

日本の雇用について、特に新卒一括採用と、職務無限定性の問題が良く指摘されるところですが、この分野は簡単には解決しないのだなと改めて感じました。

ヨーロッパ諸国では、高等教育は無償か、かなり低い学費で受けることができるので、在学年次にあまりとらわれず、卒業時期もまちまちのようです。例えば、学位取得後に就職して、数年後に修士課程へ入学、修士取得後にそれを活かしてキャリアアップする、というようなこともあるとのこと。

卒業時期がまちまちなら、そもそも「一括採用」という仕組みが成り立たないですよね。

加えて、一括採用が行われる背景には、企業内教育のウェイトが大きいという事情もあります。それも良く考えると、「すでに習得している知識やスキル(高等教育や公的な職業訓練)が活かされるのであれば」、わざわざ企業内で教育を行う必要がありません。逆に見れば、そもそも知識やスキルを持った人を採用すればいい話です。

一括採用は、その枠に入りきれなかった人への、負の影響が大きすぎるという側面は確かにあります。しかし、今の日本の高等教育の現状では、卒業時に大したスキルも持ちえないことから、若者を就職させて、職業訓練を企業に任せる、というスタイルとしては、今後も続けないといけないのだなと、思いました。

興味深いのは、ドイツやフランスで、徐々に日本的?な採用スタイルや雇用が進んでいると、個人的に思った点です。

フランス・ドイツ―高等教育制度改革の真っただ中

1.若者の失業率の高さ

従来から、ジョブ型雇用が一般的な欧米各国では、若者の失業率が深刻な社会問題になっています。例えば、フランスでは15~24歳の失業率が24%(2015年)となっていて、ドイツの7%や、日本の6%と比べて、大きな差になっています。
 一般的にジョブ型雇用の場合、募集がある職種に対して、必要な能力やスキルが決まっているために、新卒・既卒・年齢に関係なく、その人が持っている能力やスキルに基づいて採用されることになります。そのため、経験に乏しい若者は就職で不利になるため、失業率が増加します。
 ドイツの失業率が低いのは、高等教育期間中に職業訓練をかなり積極的に実施しているからです。高等教育卒業時には、一定の職業資格を持っているため、それに基づいて就職できます。また、ドイツ国内の好景気にも支えられて、後述する大学卒業生の急増も、何とか乗り切ってきましたが、その背景には、企業側が用意する職業訓練の多様化もあります。

2.ボローニャ・プロセス

これまでも、高等教育の無償化などを通して、高等教育を受ける人が増えてきていた状況でしたが、ボローニャ・プロセス(1999)以降、大学卒業生が急増している状況です。
 ボローニャプロセスとは、欧州全体で、国境を越えた高等教育圏の構築を目指すもので、その後具体的に、各国の相互の学位や教育歴、取得単位の認定・互換性などが定められるようになりました。例えば、学位に関しては、アングロサクソン系に統一されることになります(学士3年―修士2年―博士3年)。
 その経緯で、元々は研究職育成のための教育という位置づけだった、高等教育に、人が多数流れ込むことになります。つまり、従来は研究職育成のためだったので、高等教育進学後に最初に取得できる学位は、修士相当でした(ドイツ・スイス)。それが、3年のバチェラーと、2年のマスターに分かれたことにより、バチェラーを取得する人が増えます。

高等教育を受ける人が増えること自体は、良いことですが、それに見合う職がなければ、それは社会問題になります。

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